臨床試験(2)

比較は正しく行われていますか?

「介入」の有効性や安全性が分かっていないから、臨床試験を行うにしてもなぜ2群以上にわけて群間比較する必要があるのでしょうか?

介入研究を行うときに、研究者が知りたいことは「参加者全員に介入を行った場合」と「参加者全員が介入しなかった場合」の結果がどのぐらい異なってくるかです。

例えば、

「〇〇を飲んだら腰の痛みがなくなった!」「▷▷ダイエットで3kgやせた!」

こういった宣伝は枚挙に暇がありませんが、「治療」として「介入」の効果をはっきりさせるためには、ちょっとあまのじゃくになる必要があります。

    

「じゃあ、〇〇を飲まなかったら本当に痛みはなくならなかったのか?」

    

「▷▷ダイエットをしなかったら、本当にやせなかったのか?」

     

このように、思い込みから一歩離れて、眺めてみることが必要になるのです。

なぜなら、研究者は往々にして「介入」に思い入れがあります。

恥ずかしながら、かく言う私もその一人です。

「誰かの役に立つに違いない」と思っているから、時間や労力、お金を割いて臨床試験を行うわけです。

この意識は臨床研究をやっていく中では大切なモチベーションになります。

ただ、この思い込みのまま突っ走ってしまうと、

「それって本当に「介入」の効果なの?何もしなくてももしかしたらやせたんじゃないの?」と言われたときに反論ができません。

科学的な根拠(エビデンス)というためにはこれに対して可能な限り準備することが必要になります。

例えば、「効果がある」ダイエット方法をしていると参加者が考えれば、無意識に間食を減らしたり、運動量も増えたりするかもしれません。

もし、その副次的なダイエットが「介入」を上回った効果を出し、本来何の効果もない「介入」が一見すると非常に効果があるように見せてしまったらどうでしょうか?

(副次的効果も含めてのダイエット方法だと言われてしまえばその通りではあり、一般的な生活の中では消費者が納得していればよいとなってしまうこともままあります。)

     

私たちが本当に知りたいのは「介入」以外の「年齢」「食生活」「ダイエット歴」「体重の変化」が全く同じ人に、「介入」をした時としなかった時に生じる差だったはずです。

このため、最も理想的な比較とは、「同じ人物」に介入を行った場合と、行わなかった場合の効果を見ることです。

ちなみにこの、介入を行わなかった場合を「コントロール」と呼びます。

とはいえ、「同一人物に」対する「介入」と「コントロール」をしたときで比較するために、一度やせた人をわざわざ太らせて同じ体重にしてから別のダイエット方法をさせることは倫理的に問題があります。

また、同じ人物、体重であったとしても「それまでのダイエット歴」「体重の変化」が変わってしまいます。

最初のダイエット方法が運動で、ある程度効果があることが分かっていたら別のダイエット方法をしている最中(例えば食事内容の変化)にも、運動を無意識に行ってしまう可能性があるわけです。

   

では、どうしたらこのようなことを防いで、しっかり比較することができるのでしょうか? 

   

よほど優れたクローン技術を使えば「ほぼ同一人物」に対して、「同時期」に「介入」と「コントロール」を行うことが可能かもしれませんが、倫理面やコスト面など問題が山積みです。

このため、倫理的に許される範囲で、かつできる限り理想的な比較対象を現実的に作り出す方法としてよく行われるのが無作為/ランダムに参加者を「介入群」と「コントロール群」の2群以上に分ける「無作為/ランダム化比較試験」です。

  

盲検化 

残念ながら無作為/ランダム化比較試験にも勿論問題がないわけではありません。

臨床試験にわざわざ参加してくださる方の多くは、せっかく参加するならば効果があると思う「介入」を受けたいと考えるのではないでしょうか?

その結果、自分がダイエットの「介入群」であればこれでやせるはずだと思い、頑張って運動や間食を減らし、結果として見かけ上は効果がある結果が出てしまう可能性があります。

逆に、「介入群」だから何をしてもやせるからと間食が増えて結果として効果が見られない可能性もあります。

同じような心理の変化は「コントロール群」においてはもっと顕著に起きるかもしれません。

人間である以上このような感情や行動を完全にコントロールすることはできません。

    

このために取られるのが盲検化という方法で、自分が「介入群」なのか「コントロール群」なのかわからないようにする方法がとられます。

薬物の治験などでは味も匂いもそっくりなダミー薬(プラセボ)を用意し、渡している医師もそれが本物かダミーか知らないという二重盲検(患者と医師)という方法が最も汎用されています。

  

何にしても、「介入」の本当の効果を確認するためには「コントロール群」が絶対不可欠となるのです。

スッキリプロジェクトは心理療法という「介入」の性質上、厳密な盲検化は非常に困難です。

このため「早期」と「遅延」の2群で時間の差を利用したコントロールを行うことで、参加者全員が認知行動療法を経験していただけるようにプログラムしています。

  

比較の大切さなどは「統合医療」情報発信サイト『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』などに非常にわかりやすく説明されています。

インターネットの情報を丸呑みする前に、一度10か条だけでも目を通していただけると幸いです。


引用

厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』:http://www.ejim.ncgg.go.jp/ 2020年3月21日

修正 2020年3月21日

素材

写真 写真AC クリエイター:アディさん

イラスト イラストAC クリエイター:麦さん

写真 写真AC クリエイター:acworksさん

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト