ISB睡眠障害とIBSは関連している?
過敏性腸症候群(IBS)の診療ガイドライン(2014年 日本消化器病学会)では生活習慣の改善について有効な治療法として挙げています。
しかし、そもそも睡眠障害と過敏性腸症候群(IBS)にはどのような関連があるのでしょうか?
また、あるとしたらこの忙しいストレス社会でどのように対処できるのでしょうか?
文献を調べていくと、実際、睡眠習慣の変化や睡眠障害が過敏性腸症候群(IBS)の患者において一般人口で見られるよりも多いことが指摘されています[1]。
ただし、過敏性腸症候群(IBS)と睡眠障害が直接関係しているのかどうかについてはわかっていません。
それというのも、ライフスタイルというのは様々な因子が関与しているため、睡眠障害が過敏性腸症候群(IBS)の原因そのものになっているかどうかを言い切ることは非常に難しいのです。
過敏性腸症候群(IBS)の方の場合、抑うつなどの状態を併発する可能性は一般人口に比較して高いことが分かっています。
抑うつなどの症状として不眠を含む睡眠障害はよく挙げられます。
このため過敏性腸症候群(IBS)における睡眠障害の有病率の高さは、抑うつ病の睡眠障害の高さを反映しているだけの可能性があります。
データ上は比例しているように見えるため、過敏性腸症候群(IBS)=睡眠障害と原因を断定したくなりますが、そうするのは短絡的かもしれません。
これは疫学などを考える際に、交絡(こうらく)と呼ばれます。
ただし、臨床的にみるとお腹の症状に伴う不安が改善すれば、不眠の原因も多少は改善しそうな印象はあるのですが…。
サーカディアンリズムと便通障害
腸管の運動は睡眠-覚醒リズムと同じようなサーカディアンリズム(概日周期)を有することから睡眠は便通と比較的関連が深いと考えられています。
サーカディアンリズムは平均25時間からなる体内時計のようなもので、体外からの刺激である「日光」や「食事」などによって多くが24時間に調整されています。
これらの仕組みが私たちが何となくいつも同じぐらいの時間になると眠くなる、お腹がすくという機能などを司っているようです。
加えて、腸内細菌の増殖状態は消化管運動状態に影響されるとされており、腸内細菌に由来すると考えられる睡眠物質などとの関係から便通や腸管の運動が睡眠に影響すると考えられています [2]。
実際、IBS患者では前夜の睡眠の質が悪いほど翌日のIBS症状の悪化と相関していることが報告されています [3]。
また、少し古いデータになりますが、日本人女性に対して行われた便通と睡眠に関する調査では便秘や過敏性腸症候群がある人は、ない人に比べて睡眠全体の障害度を表す得点が高かったとされています[4]。
ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)と過敏性腸症候群
平日は起きたくなくても無理やり起き上がり、休日はその疲れをとるために昼近くまで眠り続ける。
休日十分すぎるほど眠ったはずなのに月曜日はしんどい。
このようなことを経験したことはないでしょうか?
個々人が本来持つサーカディアンリズムに従った睡眠時間帯と、社会的なスケジュールに従った睡眠時間帯には往々にしてずれがあり、この不一致によって生じる体の不調をソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼びます [5]。
例えば、平日は午前0時に寝て6時に起き(中央値は午前3時)、休日は午前2時に寝て12時に起きる(中央値は午前7時)場合のソーシャル・ジェットラグは4時間となります。
これはちょっとした海外旅行で経験する時差ボケを毎週のように体験するのと同じことになります。
ちなみに日本の5月病は丁度ゴールデンウィークというソーシャル・ジェットラグが社会的にも起きやすい状況から生じているとも言われており、心理面に及ぼす影響は少なからず報告されています。
サーカディアンリズムのずれが過敏性腸症候群(IBS)の悪化を引き起こすならば、そこにソーシャル・ジェットラグが加われば更なる腸管運動の異常や、心理的負荷がかかるようになることは容易に想像されます。
昨今COVID-19(コロナウイルス)感染の影響で在宅ワークが増えてくると、ひと
ただし、サーカディアンリズムやソーシャル・ジェットラグがそのまま治療に応用できるかどうかは分かっていません。
理屈上ソーシェル・ジェットラグを減らすために平日、休日関係なく同じ時間に寝て、同じ時間に起きるというストイックな生活を送れば過敏性腸症候群(IBS)は改善しそうですが、残念ながらエビデンスとしてはまだ報告されていません。
この辺りは観察研究だけでは難しいため、今後大規模な介入研究がなされることを期待したいところです。
2020年4月22日 修正
素材
写真 写真AC クリエイター:YUE_NANAMIさん
写真 写真AC クリエイター:RRiceさん
引用文献
[1]Journal of Clinical Gastroenterology. 42(9):1010-1016, OCT 2008, DOI: 10.1097/MCG.0b013e318150d006 ,PMID: 18607295
[2]ONo Shigeyuki, KoMADA Yoko, ARIGA H., TsuTsuMl H., & SHIRAKAWA S. (2005). An epidemiological study of the relationship between bowel habits and sleep health of adult women living in the Tokyo metropolitan area. 女性心身誌, 10(2), 67–75.
[3]Jarrett, M., Heitkemper, M., Cain, K. C., Burr, R. L., & Hertig, V. (2000). Sleep disturbance influences gastrointestinal symptoms in women with irritable bowel syndrome. Digestive Diseases and Sciences, 45(5), 952–959. https://doi.org/10.1023/A:1005581226265
[4] Shinozaki, M., Fukudo, S., Hongo, M., Shimosegawa, T., Sasaki, D., Matsueda, K., … Miwa, T. (2008). High prevalence of irritable bowel syndrome in medical outpatients in Japan. Journal of Clinical Gastroenterology, 42(9), 1010–1016. https://doi.org/10.1097/MCG.0b013e318150d006
[5] Wittmann, M., Dinich, J., Merrow, M., & Roenneberg, T. (2006). Social jetlag: Misalignment of biological and social time. Chronobiology International, 23(1–2), 497–509. https://doi.org/10.1080/07420520500545979
過敏性腸症候群すっきりプロジェクト
過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト
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