ガス症状を訴える過敏性腸症候群(IBS)

ガス型過敏性腸症候群(IBS)とは

腸管ガスに困難感を感じている方の一部には、腹痛よりも排ガスによる腹部の膨満感やガスが移動する際の音、排ガスそのものに関連して苦痛を感じている方がいることは知られています。

とくに思春期などで試験中や静かな場所で緊張したときに主に

①ガスが出そうになる

②お腹が鳴る

③お腹が張る

④痛む

などの症状が出やすいことが報告されています[1]。 

現在世界的に過敏性腸症候群(IBS)の診断基準であるRome基準で診断される中には、ガス症状単独のいわゆる「ガス型」は含まれません。   

しかし、実臨床でガス症状の訴えは少なからずあり、全てを機能性消化管疾患の枠に当てはめるだけでは解決になりません。

実際、小児の過敏性腸症候群(IBS)に対し、小児心身医学会ガイドラインである、『繰り返す子どもの痛みの理解と対応ガイドライン』の病型分類にはガス型が提案されております。

     

小児の過敏性腸症候群でも述べましたが、『繰り返す子どもの痛みの理解と対応ガイドライン』ではこのガス症状の訴えを対し、ガス型過敏性腸症候群(IBS)として

『おならや腹鳴、腹部膨満感などガス症状に対する恐怖・苦悩が強い。便通そのものはあまり問題にされない。静かな教室などで症状が出やすく、圧倒的に女子に多い。思春期以降は多くが軽快するが、一部治療に抵抗性を示すことがある。』と定義しています。

これらの症状はガスの発生が増えるとされている小腸内細菌異常増殖症(SIBO)などと異なり、腸管の感情な運動(蠕動亢進)によるものが示唆され、実際、かなり古い研究にはなりますが、腸管内のガス量とガス成分には患者群と健常者群との間に差がないことが報告されています[2]。

腸管運動異常に伴う胃への逆流、疼痛閾値の低下(痛みを感じやすくなる)、ガスの移動の低下などが症状を引き起こすと考えられます。

また、ガス症状と一言にっても③、➃の腹満感と腹痛が自身の体験であるのに対し、①、②は周囲に気付かれるかもしれないという周囲との関係性も無視できない病態です。

このため、思春期に多いとされる対人恐怖との関係性も考慮する必要があります。

ガス症状に対する治療について

過敏性腸症候群(IBS)の診断基準や定義はRome基準が10年ごとに更新されるように、時代ごとに異なってきます。

また、思春期発症のガス症状の訴えは20歳以降で軽減することが知られています。

とはいえ、学校生活への支障や対人関係の支障が生じることもあり、一部は成人以降も症状が継続することもあります。

このため、治る可能性が高いといって放置することはできません。

   

残念ながら現時点ではガス症状に対する特効薬などはあまり報告されておりません。

先ほどの腸の運動異常という点だけ考慮すれば、腸管の運動を促す薬剤は効果が期待されます。

ただし、症状が家にいる時はほとんどでないが授業中など静かで他人が居る場所で出やすいということであれば、単純に腸を動かせば改善するというわけではありません。

また、腸管運動を刺激する薬剤は、緩下剤なども多く、知覚過敏を悪化させる可能性もあり、過敏性腸症候群(IBS)の方に対してはあまり処方が推奨されていません。

 

食事や生活習慣の是正は非常に大切ですが、Rome基準を満たす典型的な過敏性腸症候群(IBS)と比して対人関係など心理的側面も少なくないため、心理的サポートを並行して行うことが望まれます。

とくに、排ガス(おなら)や腹鳴に関しては周囲が感じる症状と本人が自覚している症状に乖離が生じていることもありますが、それを指摘するよりも、まずは本人の苦痛に共感する必要性があるとされています[1]。

この他、ガス症状を訴える方の場合は、「自己臭症」との区別もしくは類似点についても考慮する必要があるとされます[1]。

「自己臭症」もしくは「自己臭恐怖症」についてはまた別項目で述べてみたと考えます。


引用文献

[1]島田 章(摩利支病院), 高野 正博, 松尾 雄三:思春期の過敏性腸症候群患者の心身医学的側面 特に「ガス型」について;心身医学 (0385-0307)30巻1号 Page41-47(1990.01)

[2]Lasser RB, Bond JH, Levitt MD: The role of intestinal gas in functional abdominal  pain, NEJM 293; 524−526, 1975. 

素材

写真 写真AC クリエイター:みんと。さん

写真 写真AC クリエイター:hanaco*さん

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト