下痢型過敏性腸症候群(IBS)と便失禁(2)

過敏性腸症候群(IBS)と便失禁と治療の違い

過敏性腸症候群(IBS)では食事を含めた生活の改善を行い、それでも良くならない場合に消化管症状を主体とした薬物療法(第一段階)、不安や知覚過敏を対象とした薬物療法(第二段階)、そして不安や腹部への注意を対象とした心理療法(第三段階)が順に勧められます。

こういった治療については2014年に日本消化器病学会からガイドラインが出されました(このガイドラインはインターネットで無料公開されいます)。

過敏性腸症候群(IBS)は機能性消化管疾患であり、基本的に手術など体にメスを入れるような治療は行われません。

       

便失禁に対しても、過敏性腸症候群(IBS)と同様に薬物治療、食事療法・排便指導、心理療法などの保存療法が推奨されています。

ただし異なる点もあり、糖尿病などの内科疾患が原因と考えられる場合は、原因となる病気の治療が優先されます。

また、筋力の低下が失禁に繋がることもあるため、直腸肛門機能回復訓練(バイオフィードバック療法など)の他、筋肉の体操を含めた理学療法なども推奨されています。

一方で、便失禁の中でも漏出性便失禁と言われる「気付かないうちに漏らしてしまった」というタイプに対しては仙骨刺激両方と言われる電気刺激を与える機械を埋め込む手術の保険が通っています。

電気刺激療法はもちろん過敏性腸症候群(IBS)の方には適応になっておらず、治療方針としても大きな違いとなります。

    

便失禁に対しても2017年に日本大腸肛門病学会から「便失禁診療ガイドライン2017年版」が出されています(こちらは残念ながらインターネットでは見ることができません)。

どちらの疾患にしても、食事療法や生活習慣の改善、薬物の使用などに関する治療法は重複しているところはあるので、内科や消化器内科である程度の治療を行うことは決して無駄ではありません。

しかし、過敏性腸症候群の治療をしても一向に改善しない、自分は便失禁の回数が多いのではないかと感じられる場合は、一度肛門外科などの専門科を受診してみるというのも一つの手かもしれません。

心理療法の狙い

下痢型の過敏性腸症候群(IBS)と便失禁に共通する不安として「(便を)漏らしてしまうこと」「それを人に知られること」「(臭いなどで)迷惑をかけること」などが多くみられます。

とくに便失禁の場合はこの不安はより切実で現実味を帯びてきます。

皮肉なことに不安になると腹部への注意が向き、感覚が鋭敏になるために、ふとした腹部症状にも不安が生じるという悪循環のサイクルが生じることがあります。

薬物や理学療法などで実際に漏らす失禁の症状がほとんどなくてもこの、不安から腹部への注意の悪循環が継続すると、外出や外食などをできる限り避けるという回避行動に出てしまい、生活の質が悪化したり、仕事にも支障が出たりすることがあります。

このため、心理療法ではこの悪循環を「考え」と「行動」の二つの側面から断ち切る方法を学び、不安を軽減させることで、腹部への注意を逸らし、結果として症状が改善することを目標とします。

  

下痢型過敏性腸症候群(IBS)の方や、便失禁自体はある程度コントロールできているが不安が強いという方で心理療法に興味がある方は、一度事務局までお問い合わせください。


素材

写真 写真AC クリエイター:HiCさん

写真 写真AC クリエイター:oldtakasuさん

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト