胃腸炎から過敏性腸症候群(IBS)が発症する?
過敏性腸症候群(IBS)は未だにはっきりとした原因が分からないとされています。
いくつかの原因が複合的に組み合わせって生じると考えられており、中でもここ数年は腸内細菌との関連が注目されています。
実際、感染性腸炎後に過敏性腸症候群(IBS)を発症しやすいことが分かってきており、過敏性腸症候群(IBS)の中でも「感染性腸炎後過敏性腸症候群(post-infection IBS:PI-IBS)」呼ばれています。
感染性腸炎後過敏性腸症候群の定義
以下の3項目をすべて満たすものを感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)と定義する
1.はじめてのIBS症状の急性発症
2.感染前にはIBS診断基準(Rome基準)を満たしていない
3.次の(a-d)の2つ以上の急性症状または検査結果を認めた後に発症
a.発熱 b.嘔吐 c.下痢 d.便細菌培養陽性
感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)は下痢型の症状を呈することが多く、出現頻度は4-36%と地域などによってかなり幅があるとされています[1]。
感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)の原因としては消化管運動の変化、微小な炎症の持続、消化管の知覚過敏、腸内細菌叢の変化、抗菌薬の使用など様々な原因が考えられています。
実際、感染性腸炎後に過敏性腸症候群(IBS)を発症する群と発症しない群を比較した場合、発症者では心理的異常を伴っていたり、ネガティブなライフイベント(出来事)があったこ となど心理社会的因子などストレス感受性と発症との相関関係が推察されています。
このほか、喫煙、若年(60歳未満)、女性、3週間以上継続する下痢症状などが発症のリスク因子として知られています[1]。
また、経過を6年間観察した報告では比較的予後良好で、43%で症状回復を認めると報告されています[2]。
といっても、下痢症状に悩む人にとっては「たった」6年とは到底言えないでしょうが…。
因みに、診断基準は一応の定義がありますが、治療としては特別な治療法は確立しておらず、一般的な過敏性腸症候群(IBS)の治療方針に準ずるという方針になっているようです。
感染性腸炎後の過敏性腸症候群(IBS)発症と条件付け
上記したように、感染性腸炎後に過敏性腸症候群(IBS)の発症には心理的な異常やネガティブな出来事が関与していると考えられています。
この背景には一種の条件付けが働いているのではないかと、考えられています。
詳しくは、「過敏性腸症候群(IBS)と条件付け」で述べていますが、過敏性腸症候群(IBS)における症状や不安というのはこの条件付けと密接に関連していると考えられています。
例えば、あるレストランでハンバーグを食べた日の夜にお腹を壊したとしましょう。
胃腸炎に関して、原因が食中毒かどうかというのはなかなか診断が難しく、まして原因の食べ物が特定されることは非常にまれです。
潜伏期間にもかなり幅があり、3時間程度で発症する者もあれば、数日、長いものだと数カ月に及びこともあります。
1週間も前の食べ物となると覚えていない人が多いのではないでしょうか?
それでも、病院での問診では多くの方が「原因」と思われるものを挙げられます。
ここで大切となるのは、「あるレストランのハンバーグ」が原因だと本人が思ったということです。
その人は症状が良くなってから、再度その「あるレストラン」に行き、「ハンバーグ」をあえて食べようとするでしょうか?
平気だという方も居るかもしれませんが、あえてはしない、という方も少なくないと思います。
これが一種の条件付けです。
ただ、これが「あるレストランのハンバーグ」ではなく、「あるレストラン」自体に対する不安になったり、もっと広く「ハンバーグ」「外食」といったように普遍的なものと結びつくと、「ハンバーグ」を食べると下痢になる、「外食」すると調子が悪いという条件付けが出来上がってしまい、結果として生活の質が落ちるということがあります。
もちろん、感染性腸炎後に過敏性腸症候群(IBS)のすべてでこのような条件付けがなされているとは考えにくいのですが、気分が落ち込んでいるとなんでも悪い方向に考えがちになり、こういった条件付けがなされやすい傾向はあります。
こういった条件付けに対する治療として、認知行動療法では曝露(ばくろ)療法というものが行われています。
スッキリプロジェクトでもこの曝露療法にはかなりの時間を割いて積極的に行ってもらっています。
もし、少しでも興味があれば事務局までお問い合わせください。
時節柄、原則外来での説明は少なくまずはメールやお電話で説明させていただいております。
ご迷惑をお掛けしておりますが、宜しくお願い致します。
今しばらく大変な時期が続きますが、皆様もお体どうぞご自愛ください。
文献
[1]Spiller R, Garsed K: Postinfectious irritable bowel syndrome. Gastroenterology. 2009;136:1979-1988.
[2]Neal KR, Barker L, Spiller RC:Prognosis in post-infective irritable bowel syndrome:a six year follow up study. Gut 51:410-413, 2002
素材
写真 写真AC クリエイター:acworksさん
イラスト イラストAC クリエイター:麦さん 菊池がパワーポイントで編集
過敏性腸症候群すっきりプロジェクト
過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト
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