小児の過敏性腸症候群(IBS)

同じ過敏性腸症候群(IBS)でもちょっと違う

小児における腹痛の特徴は、①成人と同じ病名でも成人とは病態が異なることがあることと、②小児期特有もしくは主に小児期に見られる病態があることです[1]。

特に過敏性腸症候群(IBS)は小児期から成人までどの年代でも発症するとされているものの、小児期、思春期、成人期で症状が異なるとされています。

診断には通常、小児期も思春期も成人期もRome IV基準(2016年)が使われます。

また、これに準じて病型も下痢型、便秘型、混合型、分類不能型に分類されます。

しかし、小児では典型的な下痢、便秘症状が出現しにくいこともあり、わが国の小児過敏性腸症候群(IBS)に対して小児心身医学会ガイドラインである、『繰り返す子どもの痛みの理解と対応ガイドライン』においては小児の実情に合わせた次のような病型を提唱しています[3]。


小児過敏性腸症候群(IBS)の病型

反復性腹痛(RAP)*型:頻回にへそを中心とした腹痛があるのが特徴。便通は一定しない。起床時に症状が強く、長時間トイレにこもりやすい。午後は軽快する。低年齢に多い。

便秘型:下剤を使用しないと便が出ない場合と、頻回な便意はあるが実際には十分排便できない場合がある。女子に多いが、比較的頻度は低い。

下痢型:起床時から腹部不快感や腹痛、頻回な便意が始まる。頻回の便意でトイレに行っても残便感が残ることが多い。便ははじめは軟便で次第に下痢便となることが多い。男子に多い。

ガス型:おならや腹鳴、腹部膨満感などガス症状に対する恐怖・苦悩が強い。便通そのものはあまり問題にされない。静かな教室などで症状が出やすく、圧倒的に女子に多い。思春期以降は多くが軽快するが、一部治療に抵抗性を示すことがある。

       

ちなみに、最初に述べた通り世界的に過敏性腸症候群(IBS)の診断基準として用いられるRome基準の病型分類ではガス型というのはないのですが、臨床上はこのような症状を訴える成人は少なからずいらっしゃるという印象があります。

(勿論、悩まれて大学病院まで来られるというバイアスがあるので一般人口に比べれば少ないと思われますが…。)

そういう意味でも、自然軽快するに任せるのではなく、小児、思春期に適切な介入を行うことは非常に重要なことだと思われます。

このように同じ過敏性腸症候群(IBS)といっても小児過敏性腸症候群(IBS)と成人の過敏性腸症候群(IBS)を全く同じものとして扱うのは少し無理がありそうです。

    

また、有病率にも差があるとされています。

成人においては過敏性腸症候群(IBS)の方は日本の人口の10-15%前後を占めるとされていますが、小児過敏性腸症候群(IBS)では、小学生で1-2%、中学生で2-5%、高校生で5-9%程度という報告があります。

ただし、一方では中高生を対象に行った全国的な調査では18.6%の有病率の報告もあり[2]、実態としては成人とそう変わらない有病率なのかもしれません。

小児過敏性腸症候群(IBS)の治療の順序は成人と若干異なる

成人の過敏性腸症候群(IBS)の治療順序は「過敏性腸症候群(IBS)の治療」でも述べたように食事や生活習慣の改善に始まり、消化管を主体とした薬物、不安などに対する薬物、そして心理療法ン順に進められます。

一方、小児過敏性腸症候群(IBS)に関しても食事や生活習慣の改善ができそうな部分は家族の協力も得て行っていく必要があります。

ただし、小児は成人ほど排便の異常がはっきりしていないことが多く、食事や薬物療法の効果を支持するデータが乏しいことも報告されています[4]。

このため、小児ではまず疾患に対する本人および家族の理解を中心とした非薬物療法を中心とし、それでも残る症状に対し薬物補助をしてくような流れとなります。

非薬物療法で重要な点は、【繰り返す子どもの痛 みの理解と対応ガイドライン】においては

・病態生理を本人およびご家族が理解できるように分かりやすく説明すること

・命に関わるような怖い病気ではないことを本人が安心できるように説明すること

・子供の訴えを「心の問題」「気のせい」と片づけないで、子供と家族との訴えを受けとめて、つらさに寄り添う姿勢をみせること

としています。

そういった意味でも、時間を十分にとることが必要です。

このため、小児過敏性腸症候群(IBS)の場合は医療機関だけでなく、保健室やスクールカウンセラーなどとも協力できる体制を整えていくことが非常に有用だと考えられます。

  

反復性腹痛*とは

反復性腹痛(RAP) Apleyらが1958年に「日常生活に影響するほどの反復性発作性腹痛のエピソードが,少なくとも3か月以上の期間にわたり,3回以上独立して 認められるもの」とR定義した概念です。

この反復性腹痛の中には機能的疾患も器質的疾患も含まれているため、臨床上使いやすいのですが、2005年に米国小児科学会からあまりこの用語の使用を勧めないという勧告がでました。

その理由としては「小児の機能性腹痛は慢性腹痛のもっとも一般的な原因であり、感染症や炎症性疾患などの問題とは区別されるものである」という点にあります。

ただし、非常に分かりやすいので今でも小児科領域の文献を見ると反復性腹痛という言葉は所々で見かけることがあり、ガイドラインでの名称もその名残なのかもしれません。


引用文献

[1]石崎優子:小児消化器疾患の心身医学.心身医学50:955-959, 2010 

[2]Yamamoto, R. et al; Irritable bowel syndrome among Japanese adolescents: A nationally representative survey. Journal of Gastroenterology and Hepatology, 30, 1354-1360. 2015

[3]土生川千珠 他; 繰り返す子どもの痛 みの理解と対応ガイドライン(改訂版).腹痛編.子どもの心とからだ, 23, 488-502, 2015

[4]Chiou, E., & Nurko, S. Management of functional abdominal pain and irritable bowel syndrome in children and adolescents. Expert Review of Gastroenterology and Hepatology, 4, 293-304, 2010

素材

写真 写真AC クリエイター:Hadesさん

写真 写真AC クリエイター:FineGraphicsさん


過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト