過敏性腸症候群(IBS)における条件付けの背景

脳内検索の結果が常に正しいとは限らない

「何が悪かったんだろう?」

思ってもいない症状が出てしまったとき、こんな質問を自分に投げかけたことはありませんか?

病気、とりわけがんなどの告知などを行うときはこの質問とよく出会います。

ある程度エビデンスとして確立された煙草やアルコールの過剰摂取などがあると、あれのせいか、と落ち込まれる方や反省される方もいますが、こういった分かりやすい原因がなくても病気になるときはなります。

むしろ、煙草やアルコールは原因の一つに過ぎず、食事や運動、遺伝など様々な原因が複雑に絡み合った結果として病気が発生することが多く、感染症のようにある特定の原因を取り除けばよいという単一要因の病気の方が稀です。

       

過敏性腸症候群(IBS)はまさに複合的な要因の結果起こる病気だと考えられており、特定の原因を見つけるのは難しいと思われています。

しかし、腹部症状が起きた時に「何が原因だろう?」という質問を問いかけると、脳は答えに辿り着くまでひたすら検索し、何らかの答えをひねり出してきます。

下痢をしてしまったときに「さっきの○○が悪かったかも…。」なんて思い浮かんだ経験はないでしょうか?

原因が判明すれば次にはそれを取り除くことで症状を起こさずに済む、と考えるのはごく自然な流れですし、私たちが同じ失敗を何度も繰り返さないための学習能力とも言えます。

しかし、過敏性腸症候群(IBS)においてはこの学習能力が時にあだとなることがあります。

学習能力の功罪   

例えば過敏性腸症候群(IBS)においては「トイレがない(行けない)環境」になると症状がでるという方は少なくありません。

客観的に考えると「トイレがない(行けない)環境」、例えば電車自体からトイレに行きたくなる物質が出ているわけではないはずです。

そんなことになっていれば特急電車などに乗る人は全員ドアが閉まるなり腹部症状に襲われるはずですが、幸いそのような事態は起きていません。

   

このような背景には誤った学習が存在していると考えられています。

過敏性腸症候群(IBS)で厄介なのはこの必ずしも正しくない学習から導かれた【答え】が本当に当たっているかどうか確認不十分なままでも真犯人扱いされてしまうケースが少なからず存在していることです。

なぜ知覚過敏や腸管の運動異常が起きるのかについては未だ明確な答えは出されていません。

とはいえ、「なぜ?」という問いかけに必ずしも明確な【答え】がないというのは、推理小説で真犯人が判明しないまま終わってしまうようなもので、「結局犯人は⁈」とモヤモヤが残ります。

私たちの脳は理屈はさておき、あまりこのモヤモヤは好きではないようです。

(この辺りは脳科学者の先生の意見を伺いたいところです。)

    

【何らかの理由】のように曖昧な答えよりも、「電車」が犯人だと言い切ってしまう方が説得力があり、何より次に備えやすいという利点があります。

一方、この犯人扱いの欠点はこの脳が導き出した【答え】を無意識で受け入れ、「トイレがない(行けない)環境」である電車などをつい避けてしまうことで自分の生活の質を下げてしまうことがあることです。

認知行動療法(CBT)で冤罪に立ち向かう⁈          

認知行動療法(CBT)ではこの「なぜ?」に対して自分が導き出した【答え】が必ずしも100%正解ではない、もしかしたら誤っている可能性もある、という前提で確認作業をしていきます。

推理小説よりは裁判や犯罪捜査に近いイメージかもしれません。

自分の導いてきた【答え】を支持する証拠と、支持しない証拠を集め天秤にかけていくといくことで【答え】は本当に正しいのかどうかを再評価していきます。

この証拠集めをするときに【答え】を支持しない証拠を客観的に集める作業が何より重要となります。

この作業では推理小説のように奇抜なトリックが待っていることはほとんどありません。

ただ、この【答え】を支持しない証拠を見つけるのは少し訓練とコツが必要です。

     

「トイレがない(行けない)環境」である電車自体が有害なものでないとしたら電車に乗っていてもいつも症状が出るわけではない、大丈夫な時もあるという事実があるかを検証していく必要があります。

私たちの記憶は強い感情と結びついた時は強く記憶に残りやすいとされていますので、不安だったときは鮮明に覚えていても、何ともなかったときはあまり記憶に残っていない可能性があります。

証拠の捏造は裁判ではご法度ですので、何とか記憶の隅から証拠を見つけ出すか、再度検証作業を行うことで事実確認をする必要があります。

また、この証拠集めは本人にしかできません。

ただ、証拠集めが上手くいかず「やっぱりだめだ。」となってしまっている場合に周囲の方は本人が見落としている証拠を指摘してあげることで応援することができます。

例えば電車に乗っている真っ最中だとトイレに意識が向いてしまうという方もいるのでタイミングが少し難しいのですが、一日の予定が済んでもう電車に乗らなくて良いときや、次に会ったときに今日はトイレに行く回数が少なかったね、などと指摘されると「そういえば‥」となることも少なくないようです。

この協力を得るには、信頼できる人に自分が過敏性腸症候群(IBS)であることや、心理療法を行っていることを説明する必要がありますが、一人では行き詰まりを感じる場合は有効です。

      

少し、試してみたいけど取っ掛かりが見つからないという場合はぜひ、IBSスッキリプロジェクトまでお問い合わせください


素材

写真 写真AC クリエイター oldtakasuさん

写真 写真AC クリエイター himawariinさん

写真 写真AC クリエイター himawariinさん

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト