低FODMAP(フォドマップ)食と過敏性腸症候群(IBS)

毎月のように様々な健康に良い食材や食べ方多くの媒体(テレビ、SNS、インターネットなど)を介して紹介されていますが、ある人にあった食材や食べ方が、別の人にとっては合わないということもあるのではないでしょうか?

例えば、過敏性腸症候群(IBS)の有無にかかわらず、牛乳を飲むとお腹が決まって緩くなるという方がいます。

実際のところ、日本人には乳糖不耐症といって牛乳などに含まれる乳糖が上手く分解できずにお腹を下してしまう人が一定数存在すると言われています。

こういった「食」と「消化管」の関係を個人的な経験からではなく、もう少し客観的にデータを集めることで見ていこうというのが臨床研究となります。

過敏性腸症候群(IBS)の診療ガイドラインにおいては生活習慣や食の改善は、薬物療法を行う前に推奨される治療となります。

すでに1980年代には過敏性腸症候群(IBS)の患者で炭水化物など摂取する食物によっておなかの症状、とりわけガスに伴う症状が悪化するのではないかと考えられていました。

IBSに対する食事療法の中でも欧米で近年注目されているのが「FODMAP(フォドマップ)食」で、腸で発酵しやすい短鎖炭水化物(糖類)の摂取を減らすことで症状の改善を図る治療法になります。]

  

FODMAPとは

発酵性オリゴ糖(特にガラクトオリゴ糖とフルクタン):Fermentable Oligosaccharides

2糖類(特に乳糖):Disaccharides

単糖類(特に果糖):Monosaccharides 

ポリオール:And Polyols

の頭文字からなります。

これらの糖類は小腸内で消化・吸収されにくい性質があります。

このため、大腸で発酵し、腹部膨満感などの原因となる水素などのガス産生を起こします。また、これらのガスは腸管から吸収しにくいため、腸管内の浸透圧を上昇させ、多量の水分が腸管内に貯まることで下痢の原因になると考えられています。

非常に身近なところでは、ガムの包装紙に、「一度に大量に食べると体質によりお腹がゆるくなることがあります」と小さく改定あることがあります。

これはガムに含まれるソルビトールやキシリトールがポリオールに相当するためです。

ただし、「大量に」「体質により」と書いてあるようにすべての人に当てはまるわけではありません。

英国ではこれらの糖類を含む食事を避けるよう指導することで、通常の食事指導と比較してIBS症状の改善につながったと報告されています(2)。


具体的に低FODMAP食ってどんな食事?

FODMAP食は大雑把に言えば、その人の過敏性腸症候群(IBS)の原因となる食材を探り、そしてそれを避けることで症状の改善を図る食事方法です。

先にあげたようなFODMAPを多く含むと考えられる食品のまず1-2週間程度避け、低FODMAP食を心がけます。

これで、IBS症状が改善するならば、これらの食材が影響している可能性があると考えます。逆に全く変化がないようならあまりFODMAPの摂取とIBS症状には関係がないと考え、別の治療法を考慮することになります。

低FODMAP食  

•高フルクタン食品:アスパラガスやニンニク、小麦、玉ねぎなど

•高ガラクトオリゴ糖食品:ヒヨコマメ、レンズ豆など 

•乳糖(ラクトース):牛乳、ヨーグルトなど

•果糖(フルクトース):ハチミツなど

•高ポリオール食品:ルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール

文献(2)より引用 具体的な食品名は一部改変

一般的に身体に良いとされる発酵食品である納豆、ヨーグルトは実は「高FODMAP食」に相当します。また、乳酸菌など腸に良いとされるガラクトオリゴ糖が多く含まれる食品も「高FODMAP食」に含まれています。

症状が改善する場合には、次の段階として、どの食品がその人の過敏性腸症候群(IBS)の症状を起こしているのかを探していくことになります。

つまり、最初に避けた高FADMAPの食品の中から少しずつ摂取し、症状との関連を探っていくことになります。

これを探るためにはやはり数週間ていどの時間が必要となりますし、本当に食品のための症状なのか体調のためなのかも探っていく必要があります。

そういった意味では病院に行く必要は必ずしもないものの、自分で行うにはかなり労力と時間を要する治療法でもあります。

可能なら栄養士の方などと相談してレシピを教えていただくことも近道かもしれません。

ただ、矛盾するようですが、ガイドライン上過敏性腸症候群(IBS)の治療にはプロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌)の投与も推奨されています。

つまり、一方では高FODMAP食として避けるように推奨されている乳酸などが一方では治療として推奨されているのです。

このように”これ”という絶対的な治療法が存在しないのもIBSがなかなか治りにくい病気と認識される原因になっているのかもしれません。


追記:

ただ、FODMAPを多く腹部とされる食品には、「果物」「乳製品」「穀類」「豆類」「野菜類」らが含まれ、それらは各々、栄養素を豊富に含み、生理作用を持つ食品でもあります。

 オリゴ糖や果物、乳製品などを摂取することで、便秘などの症状が改善される方もいることと思います。

「低FODMAP食」はあくまでこれらが悪化の原因である人に対する治療で、すべてのIBSの方に必ずしも効果能ある万能的な食事療法ではないことに注意してください。

また、あくまで「低」であって、「無」でないところもポイントです。

FODMAPを含むものを全て取り除くと、食べられるものがほとんどなくなってしまうので非常に偏った食生活となるので、厳密に行う場合は必ず栄養士の指導の下行う必要があります。



写真・イラスト
写真AC クリエイター:きなこもちさん

イラストAC クリエイター:麦さん

引用文献

(1)Jain, N.K., Rosenberg, D.B., Ulahannan, M.J., Glasser, M.J. & Pitchumani, C. (1985) Sorbitol intolerance in adults. Am. J. Gastroenterol. 80 , 678–681

(2)Staudacher HM, Whelan K, Irving PM, Lomer MCE. Comparison of symptom response following advice for a diet low in fermentable carbohydrates (FODMAPs) versus standard dietary advice in patients with irritable bowel syndrome. J Hum Nutr Diet. 2011;24(5):487–95.

2018.11.16 追記



過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

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