過敏性腸症候群は遺伝するのか?
過敏性腸症候群(IBS)は10人に1人程度と言われていますが、それが友人や知り合いではなく、親族内に多く見られることがあると、遺伝するのか心配になられたことはないでしょうか?
IBSの原因は未だに良く分かっておらず、食事に伴うアレルギーや生活因子、消化管の運動異常、消化管の知覚過敏、腸内細菌叢、脳腸相関および消化管の炎症などが注目されています。
近年は全ゲノム解析といって、一人の人が持つ遺伝子の解析を比較的短時間で、全て行うことができるようになってきました。
以前は一人の遺伝子を解析するのが全世界での一大プロジェクトだったことを考えると、本当に遺伝子の分野は日進月歩しているのを感じます。
とにもかくにも、IBSもその流れの中で原因となる遺伝子の特定が進められており、実際いくつかの遺伝子が関連している可能性が指摘されています。
例えばすでにIBSの治療薬剤となっているセロトニン受容体阻害薬(ラモセトロン)などはセロトニンが受容体に結合することを妨げることで、IBS症状の改善を図る薬物です。
しかし、そもそもセロトニン受容体自体に何か異常があって、IBS症状に繋がっているのかどうかはわかっておりません。
近年、セロトニン受容体の遺伝子に何らかの異常があるという報告もされていますが(1)、結論としてはさらなる検証が必要というところにとどまっています。
加えて、IBSにつながる遺伝子異常が見つかったとしても、それがいわゆる親から遺伝するものなのか、それとも様々なストレス、年齢などによって後天的(生まれた後)に生じるものなのかなど、まだまだIBSと遺伝にかんしては検証が必要になると思われます。
過敏性腸症候群と腸内フローラ
腸内フローラは、フローラ(花畑)という言葉と腸が掛け合わされている何とも不思議な造語で、腸管内の細菌叢(さいきんそう)を意味しています。
様々な種類の花が咲き乱れる花畑のように、腸の中にも様々な種類の細菌が存在していると考えられています。
腸内細菌叢というのは後天的に作られます。
つまり、母親の胎内は通常無菌で腸内に細菌が住み着くのは生まれた後からです。
その意味では、遺伝するわけではありませんが、幼少期を共にすることの多い家族と似てくることが知られており、疑似的な遺伝と考えてもいいかもしれません。
IBSの原因はよく分かっていないと書きましたが、感染性腸炎後にIBSが発症することは臨床医の中ではよく知られています。
このことからIBSを引き起こす因子の一つとして腸内細菌も注目を集めています。
我が国においても、感染性腸炎後のIBS罹患率を調査した研究において、健常者ので感染エピソードを有する割合は17%であったのに対し、IBS患者中の割合は44.6%と高い値を示しています(2)。
実は腸内の細菌のバランスを元に戻すため、腸内細菌を調整する薬剤として、抗菌薬であるrifaximinは2015年5月から米国でIBS
の治療薬として認可されています。
先ほど、腸内細菌叢は疑似的な遺伝という表現を使いましたが、もし腸内細菌叢の変化が関連して生じるとしたら同じような細菌叢を有する家族内でIBSが多く認められるということがあるかもしれません。
これに関しては、推測の域を出ておらず、今後の研究の発展に期待するところです。
参考文献
Yuan, J. et al. (2014) ‘Association Study of Serotonin Transporter SLC6A4 Gene with Chinese Han Irritable Bowel Syndrome’, PLoS ONE, 9(1), p. e84414. doi: 10.1371/journal.pone.0084414.
Kanazawa M, Endo Y, Whitehead WE, et al: Patients and nonconsulters with irritable bowel syndrome reporting a parental history of bowel problems have more impaired psychological distress.Dig, Dis Sci 49: 1046-1053, 2004
イラスト・素材
写真 pixbay; qimono
イラストAC イラストレーター : 白いねこねこさん
過敏性腸症候群すっきりプロジェクト
過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト
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