過敏性腸症候群(IBS)と鑑別したい腸疾患

鑑別疾患とは?

「お腹の病気」と聞いた時、どんな症状を思い浮かべますか?

下痢や便秘、腹痛、吐き気、…人によっては出血(血便)などを思い浮かべるかもしれません。

一方で、息やおならの匂いや回数、お腹の張り感などからお腹の病気があるのではないかと心配される方も居ることだと思います。

その中でも今回は過敏性腸症候群(IBS)の診断を下す前に、鑑別しておくべき病気の一つ、炎症性腸疾患について述べたいと思います。

因みに、鑑別診断とはある病気を診断する際に、その症状や検査の結果から可能性がある複数の病気を比較しながら、最も可能性が高い病気を特定する診断のことを指します。

炎症性腸疾患とは?

炎症性腸疾患は主に潰瘍性大腸炎とクローン病という2つの病気が占めています。

潰瘍性大腸炎やクローン病は「良性」疾患であり、消化管の「良性器質的疾患」の代表選手でもありますが、どちらの疾患も難病に指定されています[1-2]。

ここでいう良性は予後が良いといういみではなく、悪性疾患=「ガン・肉腫」などが否定されるというだけの意味です。

炎症性腸疾患の代表的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の患者さんで見られることが分かっています。

さらに発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状も現れることがあります。

また腸管以外にも目や関節、皮膚などに症状が合併して生じることもあります。

原因がいまだにはっきりせず、かつ、いわゆる採血や画像検査(CTやエコー)などだけでは異常が見つからないこともあり、診断やフォローには内視鏡検査が必要となることが多いです。

      

ちなみにクローン病と潰瘍性大腸炎は一見下痢、腹痛など症状が似ていますが、異なる病気であり、発症部位や年齢や治療薬も必ずしも同じではありません。

クローン病が10歳代~20歳代の若年者に好発し、口腔内~肛門部まであらゆる消化管粘膜に発症する可能性があるのに対し、潰瘍性大腸炎は20-30歳代を発症ピークとしますが、高齢になっても発症することがあり、基本的には大腸粘膜に限局しているとされています。

ただ、遺伝子レベルの異常や内視鏡の画像、治療薬なども重なる領域が多く、2つのどちらにも鑑別しきれないこともあるので、炎症性腸疾患という大きな枠組みの中に組み込まれています。

難病指定された理由の一つにはこれらの疾患が根治(完全に治ったとみなす)するのが難しいとされ、落ち着いた(緩解)状態をできるだけ維持する慢性的な病気であることが挙げられます。

このため、状態が落ち着いていて内服なども必要なくなっていても定期的な検査は必要となりますし、何らかのきっかけで再度症状が悪化することがあることを念頭に置いておく必要があるためです。

   

通常、炎症は体内に入ったばい菌やウイルスなどを駆除するために起きます。

「炎」という言葉を用いているように、炎症が起きると粘膜の腫れ、出血、粘液などが出てくることが分かっています。

これらの症状は原因となるばい菌やウイルスさえいなくなれば、一過性で済むことがほとんどなのですが、炎症性腸疾患ではそれが経過によっては年単位で続く可能性もあります。

とはいえ、最近はよい内服、座薬、注腸製剤、点滴、自己注射など様々な薬剤も出てきており、きちんとコントロール下に置ければ日常生活は大きく障害されないこともわかっています。

潰瘍性大腸炎やクローン病の症状や詳しい経過は難病情報センターなどで詳しく見ることができます。

    

炎症性腸疾患と過敏性腸症候群(IBS)の類似点

炎症性腸疾患の主症状は下痢と腹痛と記載したように、過敏性腸症候群(IBS)と症状が似ています。

このため、血便や体重減少、発熱などがあれば比較的診断しやすいのですが、下痢や腹痛のみの症状だけでは過敏性腸症候群(IBS)との鑑別が困難であるとされてます。

加えて、過敏性腸症候群(IBS)同様にストレスでも悪化することが分かっており、とくに若年層での発症が多いことから、若年発症の過敏性腸症候群(IBS)を疑った場合は、常にこの疾患との鑑別が必要となります。

先にも述べたように、採血や画像検査は炎症性腸疾患を100%診断することは難しいことが分かっています。

ただし、炎症ですので症状が強い場合は採血や画像検査で異常が見つかることが多くなります。

逆に言えば、症状(腹痛・下痢)が非常に強いのに、体重減少や発熱、下血はなく、採血や画像検査が全く異常がない+ストレスなどと非常に関係している場合は炎症性腸症候群よりも過敏性腸症候群(IBS)の方が疑われます。

最も確実性の高い検査である内視鏡検査は成人でも下剤などの準備が大変な検査ではありますので、検査をする場合は十分な問診と必要性を考慮して行う必要があります。

   

どちらにしても、下痢や腹痛が半年以上続いている場合は、体質だと片付けずに一度医療機関を受診してみてください。


素材

写真 写真AC クリエイター:セーレムさん

写真 写真AC クリエイター:acworksさん

引用・参考文献

[1]難病情報センター:クローン病(指定難病96)http://www.nanbyou.or.jp/entry/81

(2020年4月13日参照)

[2]難病情報センター:潰瘍性大腸炎(指定難病97)http://www.nanbyou.or.jp/entry/62 (2020年4月13日参照)

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト