機能性便秘と便秘型過敏性腸症候群(IBS)

機能性消化管疾患における便秘

典型的な過敏性腸症候群(IBS)で知られるのが下痢型ですが、他にも便秘型、混合型、そして分類不能型が存在しています。

下痢や便秘などは非常にありふれた消化器症状ですが、それを起こす原因によって治療法は異なります。

例えば腫瘍や炎症に伴うものであれば、手術や薬物治療が必要になりますし、他の病気(例えば糖尿病やホルモンなどの代謝異常)からくるものであれば、それらの病気の治療が優先されます。

さまざまな検査を行っても明らかな器質的(画像検査などで目に見える形で分かる)異常が見つからないときに、初めて機能性消化管疾患と診断されます。

ありふれていると言われる消化器疾患である割に、最終的な診断に至るまでに時間がかかるのが機能性疾患の特徴ともいえます。

   

便秘というのはあまりの明確な定義はなく、多くは3日以上便が出ない場合を指します。

過敏性腸症候群(IBS)の診断にも使用されるRome(ローマ)基準では次のように機能性便秘を定義しています[1]。

①排便時のいきみ、硬便または兎糞状便、排便に至らない便意、便意はあるが排便できない、排便同数の低下、残便感

②排便回数が週に 3回未満、1日の排便量が35g未満、排便の25% 100以上にいきみがある

③消化管全体または結腸通過時間の延長

また、2017年に「慢性便秘症診療ガイドライン2017」が日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会から刊行されました。

このガイドラインの定義によると、便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とされています。

つまり、従来良く言われる3日以上便が出ないだけでなく、例え毎日排便があっても頭の血管が切れそうなほど毎回力む必要があるのは便秘ということになります。

便秘型過敏性腸症候群と機能性便秘症の違い

便秘型過敏性腸症候群(IBS)と機能性便秘症を区別するのは腹痛の有無とその頻度になります。

便秘であっても全く痛みがないものや、痛みがあっても月3回もしくは週1回以下である場合は過敏性腸症候群の診断基準を満たさないため、機能性便秘症と診断されます。

逆に機能性便秘症と診断されても毎回痛みなどを強く伴ったり、生活に支障がある場合は過敏性腸症候群(IBS)の可能性も疑ってみましょう。

  

といっても両者が明確に区別できるわけではなく、ある時は過敏性腸症候群(IBS)の診断基準を満たしているが、あるときは満たしていないということも少なくないでしょう。

また、便秘は長期間続くことが多く、”これが当たり前”となってしまい、特に病気として認識されないことも少なくありません。

一般的な緩下剤や市販薬で対応したり自分なりの対処法を持たれている方も少なくないのではないでしょうか?

   

便秘の治療が便秘型の過敏性腸症候群(IBS)を悪化させることがある?!  

一般的に便秘の治療としては水分摂取と運動、繊維質の摂取などが推奨されますが、過敏性腸症候群(IBS)ではFODMAPなどに代表される食品に含まれる糖類で症状が悪化する方が居ます。

このため、便秘改善のための食事が皮肉にも症状の悪化に繋がってしまっていることもあります。

また、便秘の治療薬として用いられる薬剤のなかに腸管を刺激して便を出すタイプの下剤がいくつか存在しています。

この薬剤自体が悪いわけではないのですが、IBS症状が腸管の刺激に対する知覚過敏であるタイプの方にとっては、これらの下剤によって便は出るが痛みが増悪しているという可能性があります。

このため、もしも現在飲んでいる下剤が腸管を刺激するタイプで、便秘は改善しているのに痛みがあるという場合も便秘型の過敏性腸症候群(IBS)の可能性を疑ってみてもいいかもしれません。

   

なお、これらの腸管刺激性の下剤は長期で使用すると耐性ができたり、急に中止すると強い便秘を引き起こす可能性もあります。

このため、便秘型の過敏性腸症候群(IBS)かもしれないと疑われる場合は突然自己判断で薬を辞めないでください。

まずは、きちんと主治医の先生、もしくは薬局の薬剤師の先生に相談のうえで、まずは刺激性がないタイプの下剤や便秘型の過敏性腸症候群(IBS)に対する下剤などを併用しつつ徐々に移行することをお勧めしております。

  

もし、通常の生活改善や薬物治療では改善しない腹痛を伴う便秘や残便感があるようなら、過敏性腸症候群(IBS)も疑って内科もしくは消化器内科でご相談ください。


2020年3月30日

引用文献

[1]Drossman, D. A. (2016) ‘Functional gastrointestinal disorders: History, pathophysiology, clinical features, and Rome IV’, Gastroenterology. Elsevier, Inc, 150(6), p. 1262–1279e2. doi: 10.1053/j.gastro.2016.02.032.

素材

写真 写真AC クリエイター:akizouさん

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