内服薬服用のタイミング

「食事を食べないとお薬飲んではダメなんですよね?」

これは過敏性腸症候群(IBS)の方に限らず良く外来で聞かれる質問です。

食後に飲む理由の第一として良く知られているのが「胃腸を痛める」という理由ですが、実はこの作用をもつ薬はかなり限られています。


胃腸を実際に痛める(びらん・潰瘍を起こす)ことで有名なのがNSAIDs(エヌセイド)と呼ばれる系統の薬で、ボルタレン®やロキソニン®といった痛み止めにつかれる薬剤や血をサラサラにする作用を持つバイアスピリン®などがこの中に含まれています。

これらのNSAIDsは通常粘膜保護を行うプロスタグランジンの作用を抑制するため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍につながると考えられています。

また、NSAIDsそのものが酸性環境下である胃内で粘膜障害を起こす可能性があることが知られています。

NSAIDsの胃粘膜への直接障害については、厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアルの消化性潰瘍の項目で、次のように述べられています[1]。

 

”NSAIDsは酸環境下で脂質膜に透過性となる。細胞内に侵入した NSAIDs は、中性の環境下で再び細胞膜に不透過性となって細胞内に蓄積し、障害を来す。”

つまり、胃では細胞内に侵入できる形となって胃粘膜を傷つけ、その後胆汁などで酸が中和されれば、細胞内に蓄積することで障害を起こすということになります。

  

加えて、NSAIDsは胃粘膜を保護してくれるプロスタグランジンという物質の合成阻害作用という、本来の目的とは別のところで、直接的な胃粘膜障害作用のリスクも起こします。

このため、食後の服用によって物理的に粘膜との直接的な接触を遮断し、潰瘍のリスクを少しでも下げようという狙いがあります。

  

一方で、食後処方で出されることが多いものの、実は食前投薬の方が望ましい薬もいくつかあります。

例えば、IBSの人に多く併存(同時に見られる病気)する逆流性食道炎の第一選択薬はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれますが、これは食前投与をお勧めする薬です。

実際、内服してみても効果を実感できないとおっしゃる方にはまず内服のタイミングを確認し、もし食後で服用していた場合は食前に変更することで改善することがあります。

PPIが効果を発揮するには一旦血液中に取り込まれる必要があり、胃内に食事がたまっていると吸収されるための小腸まで運ばれるだけで時間がかかります。

食後は胃内は一時的に中和されるものの、その後1時間程度で酸分泌が盛んになります。

このため、胃酸に伴う症状を最大限に抑制しようと思ったら、血中に取り込まれる時間も考え、食前1時間程度前に摂取することが最も望ましい形となります。

同じく併存疾患に多い、機能性ディスペプシアの内服薬であるアコチアミドも同様の理由で食前の投与となっています。

  

また、過敏性腸症候群(IBS)の便秘型に対して出されるリナクロチドなども「食前」の投与が勧められています。

リナクロチドに関しては効果の発現のためというより、食後の服用によって副作用である下痢などが生じやすいという理由があります。

薬によって多少その理由は異なりますが、効果を最大限に、副作用を最小限にするためにも適切な服用時間を守る必要があります。


なぜ日本では多くの薬を食後の服用で出すのか?

実は一番は飲み忘れを防止するためという理由があります。

最初に述べたNSAIDsは食後の服用が望ましいのですが、それだけでは潰瘍が生じる可能性があります。

このため、潰瘍を呼ぼするために先ほど出た粘膜保護のためのPPIを同時に処方することが多いのですが、PPIは食前、NSAIDsは食後と分けると、服薬しない人が一定数出てきてしまいます。

薬効から考えるとできれば別々に飲んでほしいところではありますが、最低限の飲み忘れを防ぐために、食後の処方や一包化が行われていることが多いのです。

全く飲まないよりは飲む方がましという考え方が良いのか悪いのかは難しいところですが、せっかくなら多少面倒でも効果がある飲み方をしたという方は、かかりつけ薬局の薬剤師さんなどと相談してみてください。


2020年3月28日 修正

引用文献

(1)厚生労働省・重篤副作用疾患別対応マニュアル ・消化器・消化器潰瘍https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g01.pdf (参考:2018.7.31)

素材

写真 写真AC クリエイター:akizouさん

イラスト イラストAC クリエイター:麦さん

過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト