過敏性腸症候群の疫学:事務局便り#3

  1. 疫学とは
  2. 過敏性腸症候群の診断基準の変化に伴う有病率**の変化

*動画とブログの中身は同じです。

**有病率:特定の疾患の全患者の数を、その時点でその疾患を患う可能性のある人口で割ったもの(例えば、日本の過敏性腸症候群と診断された人の数÷日本人の人口)

1.疫学とは

疫学は簡単に言えば、原因と結果の関係を明らかにする学問です。

感染症であるコレラの流行を予防するために、1800年代のイギリスで始まり、コロナ感染でも活躍しました。

集団全体を対象に調査することで、病気がどのように広がるかや、何が原因で起きるかを理解し、病気を予防する方法を見つけることを目指しています。

たとえば、喫煙と肺がんの関係も疫学の研究から明らかになっており、今も様々な病気の原因や予防法を解明するために役立っています。

    

2.過敏性腸症候群の診断基準の変化に伴う有病率の変化

第二回で、過敏性腸症候群の診断基準が10年ごとに変わっていると述べました。

Rome IIIとRome IVの違いは、赤字の部分になります。

以前は腹部の不快感も診断基準に含まれていましたが、最新の基準では痛みだけとなっています。

これによって、腹痛がない、お腹のはり感などは過敏性腸症候群ではなく、機能性消化管疾患として診断されることになりました。

今後、診断基準がどのように変わるかはわかりませんが、腸内細菌などの遺伝子検査が手軽にできるようになれば、診断基準の一部となるかもしれません。

過敏性腸症候群の診断基準が変わったことで、過敏性腸症候群と診断される人の割合にも変化が見られました。

たとえば、Rome IIIでは9.2-11.2%と言われていた有病率が、Rome IVでは、3.8-10.4%まで低下したと報告されています。

ただし、日本の臨床では今でもRome IIIが使われているように、国や地域によって使う診断基準や、痛みの表現が違うため、有病率は地域差があります。

新しい診断基準がすぐに浸透しない理由の一つは、治療法が限られていることも挙げられます。

Rome IIIからRome IVに変わり、過敏性腸症候群ではないと診断されても、新たな治療法があるわけではないからです。

今後の診断基準の変化が、より適切な治療に繋がっていくことを願うばかりです。

次回は、腹部膨満感など過敏性腸症候群とにた症状を起す、機能性ディスペプシアについて説明したいと思います。


イラスト:イラストAC-カフェラテさんのイラストを使って菊池が作成

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