過敏性腸症候群と知覚過敏

過敏性腸症候群(IBS)の過敏は『知覚過敏』のこと

過敏性腸症候群の方で、周囲から「気にしすぎ」と言われた経験がある方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?

「痛み」や「不快感」といったものは客観的な数値にしたり、骨折などのように目に見える形にすることは現状ではできません。

このため、この辺りの苦痛を頻回に訴えると「気(心)」の問題にされてしまうこともあるようです。

   

しかし、知覚過敏として考えてもらえれば、もう少し身近にイメージしやすくなるかもしれません。    

そもそも過敏性腸症候群は英語でirritable bowel syndrome(IBS)といい、日本ではirritable(敏感)なbowel(腸)を直訳して過敏性腸症候群と翻訳されました。

つまり、知覚過敏がある腸ということになります。

   

腸の知覚過敏といわれても簡単にはイメージしにくいと思いますのでもう少し身近な歯の知覚過敏を例に考えてみたいと思います。

歯の知覚過敏があるとそれまでは平気に摂取できる冷たいものや熱いものを食べたり飲んだりしたときに「痛み」として感じます。

歯科に行くと空気を当てたり、器具で軽く触ったりして痛みがあれば「知覚過敏」だねと診断されます…というかされました。

このとき、「その痛みは気のせい」と歯科の先生に言われたことがある方はあまりいないと思われます。

歯の知覚過敏も腸の知覚過敏同様、痛みは数値化できていないのに、「気にしすぎ」「心の問題」とされることがあまりないのはなぜなのでしょうか?

   

これはあくまで推測ですが、背景として歯の知覚過敏と腸の知覚過敏では、痛みや不快感が起きることを自身でコントロールしやすいかどうかという違いがあるように感じます。

 

例えば、歯の知覚過敏に関しては痛みを感じる場所に冷たいものを当てない様にする、食べたり飲んだりのタイミングを調整することでむやみに痛みを感じることをある程度避けることが可能です。

一方、腸は常に動いており、食事や運動によってもその動きは変化するとされていますが、動き方そのものに関して自分の意志で調整することは(ほとんどの方は)できません。

食べてすぐ腸が活発に動くという方も居れば、2-3時間してから、翌日という方も居てかなり幅があるような印象を受けています。  

  

食事をとれば胃腸がより活発に動くことは医学的にも分かっています。

実際に、消化器内科では消化管を動かさない様にするために、入院して絶食治療というのが少なくありません。逆に言えば、腸を動かしたくない場合は絶食することである程度は確かにコントロールが可能になります。

このため、過敏性腸症候群の方の中には出かける前や最中は食事をとらない(減らす)などの対応策を取られている方も実際にいらっしゃいます。

  

とはいえ、食べてどのぐらいで一番活発に動くのかというのは個人差がかなりあります。

症状を起こさないために、外食がままならなかったり、職場でランチや飲み会に誘われても行くことができない、といった新たなストレスを抱えていらっしゃる方も居るのではないでしょうか?

    

腸が知覚過敏になることで痛みを感じやすくなるだけでなく、便やガスなども感じやすくなるためのトイレの回数が増えるといった生活や活動への支障も出てきます。

また、注意を向けることで人間の感覚は鋭くなると言われています。

腹部症状が起きるかもしれないという予想からくる不安(予期不安)を抱き、お腹への注意が向けば、知覚過敏が悪化し、過敏性腸症候群の症状自体が悪化する可能性があるということになります。

   

このような悪循環については「脳腸相関と過敏性腸症候群」で触れていますのでご興味があればそちらも参照下さい。

   

腸の知覚過敏の治療 

ある程度は自身でタイミングをコントロールしやすい歯の知覚過敏と異なり、いつ起きるか分からない腸の知覚過敏ではよりストレスが大きくなっている印象があります。

この腸管の知覚過敏に伴う痛みに対して、IBS診療ガイドラインではまず薬物治療が推奨されています。

第一選択とされる消化管を主体とした治療が効果ない場合、少し意外な気がされるかもしれませんが抗うつ薬、とくに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれる種類の内服が効果を発揮する可能性があります。

その他、第二段階の治療としては抗不安薬、漢方薬や簡易精神療法なども提案されています。

しかし、薬が効果を発揮しなかったり、副作用で続けられない場合に知覚過敏そのものや知覚過敏から生じる症状ではなく、それに伴うストレスや不安、お腹への過度の注意をコントロールしてやることで症状が和らいだり、生活の質が向上する可能性があります。

   

こういった第3段階の心理療法という取り組みを現在、京大病院消化器内科の臨床試験(IBSスッキリプロジェクト)として提案しております。

     

「気にしすぎ」な状態をから少しでも解放されるためのトレーニングにご興味がある方は中央事務局までご連絡いただければ幸いです。


写真・素材

写真AC クリエイター:FineGraphicsさん

写真AC クリエイター:FineGraphicsさん

 

2020年3月6日 修正



過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト