過敏性腸症候群とパニック障害

パニック障害

過敏性腸症候群(IBS)では様々な病気が高い割合で同時に起こっていることが知られています。

これを医学用語では併存疾患(へいぞんしっかん)といいますが、逆流性食道炎や機能性ディスペプシアといった病気はIBSの併存疾患として良く知られています。

実は、パニック障害もIBSの高い併存疾患であることが分かっています。

パニック障害の方の25-40%がIBSを併発し、IBS患者の25-30%がパニック障害を併発しているという報告もあります[1-3]。

パニック障害ではパニック発作を引き起こす身体症状(例えば呼吸苦など)が不安を高めます。このため、パニック発作中に経験した感覚と似た症状を感じると不安が高まるとされています。

「不安なことは(可能な限り)避けたい」と思うのは自然な欲求です。

このため、パニック発作中に経験した感覚と似た症状を引き起こすような場所や状況を意識的/無意識に避けるようになります。

これを「回避行動」と呼びます。

回避行動とIBS

実はIBSでもこの身体症状に対する不安から、回避行動が少なからず認められることが分かっています[4]。

「不安」になるというのは何らかの危険があるかもしれない(例えば公衆の前で漏らしてしまう)と自覚するために起こってきている感情ですから、その危険を回避しようというのはごくごく自然に理解できます。

ただ、厄介なのが回避することが増えてきてしまうと、日常生活へも影響が出てきてしまうということです。

例えば食事を食べるとお腹の症状が出るのでトイレのあるところでないと食べられない、というぐらいなら支障は少ないですが、家以外では(怖くて)食べられないということになると長時間働いている方などには健康にも問題が出てきてしまいます。

IBSは通常、生活の改善→薬物治療→心理療法の順に進めていきます。

薬物で効果がない場合、回避行動を改善する方法の一つに認知行動療法の曝露(ばくろ)と呼ばれる治療方法があります。

写真にあるように逃げても逃げてもどんどん不安が大きくなって、日常が圧迫されてしまうと感じられている場合は一度立ち止まって治療者と一緒に治療として考えてみる方法もあることを頭の片隅に置いておいていただければ幸いです。

心理療法には認知行動療法以外にも催眠療法やマインドフルネスなど様々な方法があります。

残念ながら薬物と同様、事前にその治療が合うか合わないかはなかなか判断することが難しいので、効果を自分で検証して続けていくか他の治療を選択するかを判断していただければ幸いです。


写真 クリエイター:acworksさん

[1] Lydiard RB. Increased prevalence of functional gastrointestinal disorders in panic disorder: clinical and theoretical implications. CNS Spectr 2005;10:899–908.

[2] Gros DF, Antony MM, McCabe RE, et al. Frequency and severity of the symptoms of irritable bowel syndrome across the anxiety disorders and depression. J Anxiety Disord 2009;23: 290–296.

[3] Lydiard RB, Greenwald S, Weissman MM, et al. Panic disorder and gastrointestinal symptoms: findings from the NIMH Epidemiologic Catchment Area Project. Am J Psychiatry 1994; 151:64–70.

[4] Treanor M, Barry TJ. Treatment of avoidance behavior as an adjunct to exposure therapy: Insights from modern learning theory. Behav Res Ther [Internet]. 2017;1–7. Available from: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0005796717300876


過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト