過敏性腸症候群(IBS)の治療の目標

過敏性腸症候群(IBS)と再発

せっかく治ったのに再発なんて想像もしたくないと思うかもしれませんが、過敏性腸症候群(IBS)では再発というのは決して稀ではありません。

せっかく時間やお金を費やして治ったのに再発など考えたくないという方もいるかもしれませんが、あらかじめ再発について簡単な知識を持っておくことで悪循環に入ることを止めることができる可能性があります。


上の図のように過敏性腸症候群(IBS)の診断は腹痛の頻度(週1回以上)に依存するため、ストレスがかかっても全くお腹の調子を壊さなくなることが根治(すっかり治ったこと)の基準ではありません。

苦手な場面で腹痛が起きたり、排便異常(下痢や便秘)になっても、それが週1回以上でなくなってくれば過敏性腸症候群(IBS)の診断基準から外れ、診断名を付けるなら機能性下痢症や機能性便秘症という括りになってきます。

つまり過敏性腸症候群(IBS)と機能性消化管疾患は明確に区別できる別々の病気ではなく、連続線上にあり、その頻度によって便宜上分けているにすぎません。   

このため、普段は大丈夫だけど、泊りがけで旅行に行くと便秘になってその後辛くなるという方の場合、毎週出張や旅行に出かけるというのでなければ診断上は過敏性腸症候群(IBS)ではないということになってしまいます。

  

こういった病気である過敏性腸症候群(IBS)では潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性の炎症性腸疾患と同じく、根治(完全に治った状態)ではなく、寛解(かんかい:症状は良くなっているものの再燃の可能性がある)をまずは目指していく方がいいかもしれません。

というのも、最初に言った通り「せっかく治ったのに!?」という絶望を感じるのではなく、「まあ、こういうときもある。波が通り過ぎるのを待とう」という風に感じることができれば、不安からの過敏性腸症候群(IBS)の悪循環に入ってしまう可能性が低くなるからです。

もちろん、症状によってそんなことは言っていられないということもあるかもしれませんが、過敏性腸症候群(IBS)に関して最も安心できるのは命に直結することはほとんどないという点が挙げられます。

逆に以前より悪化しているといった場合は本当に過敏性腸症候群(IBS)の再燃なのか、それとも他の器質性疾患(例えば炎症性腸疾患や大腸がんなど)なのかについては一度検査した方が良いと思われます。

   

治療目標と症状日記

では結局、治療の目標はどこに持ってきたらよいのでしょうか?

検査では「正常」と出てくるのが過敏性腸症候群(IBS)ですので、検査値の正常化を目指すことは目標になりません。

このため、多くの方が症状がよくなることを目指されます。

ただ、この良くなるというのを【一度も】「お腹が痛くならないこと」「下痢(便秘)にならない」「お腹を気にしない」などといったことを目標にしてしまうとなかなか達成が難しくなります。

というのも、下痢や便秘、腹痛は生理現象の一つです。

これらの症状が起きたからといって過敏性腸症候群(IBS)とは限りませんが、【一度も】起きないこととしてしまうと頻度に関わらず、改善していないと認識されてしまうことがあり、せっかく薬や治療が一定の効果を示していてもそれを改善したと認識されない方がいらっしゃいます。

これは治療者側からみると非常に勿体ないと感じてしまいます。

  

例えば、IBSの最新の診断基準であるRome(ローマ)IV基準では痛みを主症状としていますが、慢性疼痛の治療においては痛みが全くなくなることを主目標とするのではなく、多少の痛みがあってもできることや生活の質を保つことを目標とする治療も少なくありません。

  

同様に、過敏性腸症候群(IBS)でも治療の最初の段階としてはできるだけお腹のことを様々な行動の判断基準にせずに済む状態、お腹を気にせずに生活できる状態ができるだけ続くことを目指しつつも、時折の腹部症状は生理現象として許容できるようになっていくこととしてみるのはどうか、というのを心理療法では提案しています。

これは心理療法だけではなく、薬物やそのほかの治療においても使える考え方であり、具体的には日記などと組み合わせて行うと効果的です。

例えば日記では、事前に1週間分の腹部症状の予想と理想をあらかじめ書いていただき、その後、実際に起きた頻度(トイレの回数も)を数えてもらうといったことを行います。

この時大切なのは【あらかじめ】記載を残しておくことになります。

薬や現在の治療が効いているのかどうか自信がない、という方はまず1週間症状日記をつけてみて、実際の症状は自分の予想や理想とどのぐらい近いのか、それとも遠いのかを確認してもらい、それに応じて次の治療段階に踏み込むかを決める判断材料とすることができます。

  

日記の見本を添付しておきます。左が例、右は白紙としていますので、自分の症状に併せて調整してみてください。

IBSスッキリプロジェクトの中では症状などに応じて一緒にこの日記の微調整をしたり、結果の解釈のお手伝いをさせていただいております。

もし、ご興味があれば現在はオンラインで登録、実施も可能で京大病院までの受診が不要となっておりますので、遠方の方でもぜひ興味があれば一度お問い合わせください


素材

写真 写真AC クリエイター: リズム727さん

図 イラスト:イラストAC 麦さんのものを用いてパワーポイントで菊池が作成


過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

過敏性腸症候群に対する非薬物治療の臨床試験に関する情報提供のためのサイト