過敏性腸症候群(IBS)と食事

「出かける前の食事は怖いので食べません」

過敏性腸症候群(以下IBS)の方でこのような対処方法をとられている方は意外に少なくありません。

同時に聞かれるのが、「でも、やっぱり食べたほうが体にはいいんでしょうか?」という質問です。

小児期の肥満や成績、成人後の糖尿病や高血圧といった生活習慣病と関連付けた研究が朝食の摂取の有無や3食の摂取との関連でいくつもなされていますが、そのほとんどが観察研究*です。

食事単独の要素を図ることは難しく、はっきりとした結論が出ていない分野でもあります。

例えば寝るのが遅い人や夜勤者は、夕食も遅く朝食時間にはお腹がすいていないなど、生活習慣が食生活には大きく影響している可能性があるからです。

少し検索すれば、1日2食や1食、断食なども推奨する本も見つけることができます。

そもそも、食事の影響がどのように体に現れるのか見るには、体重の増減以外は多くが、年数を要します。

このため、食事摂取と健康については多くの人が興味を持ちつつも未だに結論が出ていない分野となっています。 

 

そもそも食事刺激で腸は動く

実はIBSの方々の訴えは非常に正しく、食事をとると腸が動き、結果として排便につながるというのは生理的な反応で、IBSに限らず起こる刺激です。

極端に言えば、口から肛門まで一本の袋状の筒になっているので(もちろん、食道・胃・小腸、大腸とそれぞれ役割や大きさは異なります)、肛門まで食べ物のカスを運び、便として排泄するためには腸が下の図の尺取り虫のように動く必要があります。


逆に、腸が動かなくなると便秘になるだけではなく、イレウスといって嘔吐や強い腹痛が生じ、食事摂取ができなくなるばかりか水分摂取もできないため、入院を余儀なくされます。 

つまり、腸が動いているというのはそれだけでも身体が正常に働いているという証拠であり、多くの人で起きています。 

IBSの人は内臓知覚過敏になっていることが多く、IBSのない人が気付かないような腸の動きにも敏感に気付いてしまっている可能性があり、「腸が動く=腹痛(下痢)=トイレ」という公式が成り立っている可能性もあります。

このような、腹痛、下痢もしくは頻回のトイレに行くのは怖い、困るという訴えは無視できません。

このため、スッキリプロジェクトでは、「食べた時」は「いつも」「絶対に」「調子が悪い」という認知について認知再構成や内部感覚曝露や現実曝露のスキルを介して学んでいきます。 

これはかならずしも、朝食や3食を食べることを目標とするものではありません。

食事や水分を取りたいけど、怖くて取れないという場合に生理的なものなのか、それとも不安などを引き起こす認知が原因なのかを見分けることで、より生活が豊かになる手伝いをさせていただきます。


*観察研究

調査対象の実態を把握することが研究の主な目的となります。つまり日本の小学生の肥満が増えていると言われているが、事実かどうかを知りたいとします。この場合、一番確実なのは日本全国の小学生のBMIなどを集め、30年前のデータと比較することです。このように、事実を観察するだけで手を出さない研究を観察研究といい、一方で、薬物投与や心理療法などのように、研究者が治療などの手を加える研究を介入研究といいます。


引用文献
(1)Cassidy S, Chau JY,Catt M, et al: Cross-sectional study of diet, physical activity, television viewing and sleep duration in 233. 110 adults from the UK Biobank; the behavioural phenotype of cardiovascular disease and type 2 diabetes. BMJ Open. 2016; 6: e0100l38
写真・イラスト素材
写真AC クリエイター:チョコラテさん
写真AC クリエイター:カメラ兄さんさん



過敏性腸症候群すっきりプロジェクト

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